きく臓の落語歳時記     Vol.95 (2015年 師走)



【うどんと笑い】


早いもので、もうカレンダーが1枚になりました。後にまた、新しいカレンダーが待ち構えております。本当に忙しないですね。それで、12月は師走ですか。ネットで調べてみますと、師走とは師僧も走る多忙な月との意 (ウィキペディア参照)。誰もが年の瀬をひかえて何かと気忙しく慌ただしくなる時期で、どっしり構えて読経をする師僧までも走り回らなければと思わせる程の多忙な月であるとされています。師走の落語は 以前に「芝浜」「掛取り」等をご紹介しましたが、今回は、冬の風物詩「時うどん(そば)」は如何ですか。寒い時のうどんの温かさはたまりませんね。誰もが知っている有名な噺ですが、「時うどん」を聞いて一番笑ったのは、忘れもしません、新宿末広亭で聞いた古今亭志ん朝さんの「時そば」でした。噺の内容はすべてわかっているのですが、志ん朝さんの芸で笑ってしまいました。流石!名人と感動しました。もう、聞けないのが大変残念です。


この噺のおもしろさを理解するには、江戸時代の時(刻)を知ることが大切です。江戸時代は明け六ッ(日の出)、暮れ六ッ(日没)が基準で、一日を12刻に分け、終日のことを「二六時中」(2×6=12)と言った。現在は一日24時間であるため四六時中となっています。それぞれを6等分したのが一刻。したがって、季節によって一刻の長さは異なる。(不定時法) 一刻≒2時間 半刻(はんとき) ≒1時間、四半刻(小半刻)≒30分。 30分以下の表現はありませんでした。下の表から分かりますように、おやつ(お八つ)と言えば、午後3時頃を言います。

図:江戸時代の時刻(注1)
 
干支の場合(時間を言う)
子の刻は午後11時〜午前1時

丑三つ時と言えば、午前2時頃ですね。



「時うどん」では、暮れの9つ、夜中の12時に、廓帰りの2人がうどんを食べる。お互いの持ち金を合わせると十五文しかない。うどんは一杯「十六文」どのようにして食べるのか。それが落語ですね。うどんを食べ終えて、キーやんが、お金を支払う時、一文・二文・三文・・・八文と数え、「親爺、今、なん時だ」「へえー九つで」十文・十一文・十二文・・・ と十六文のうどんを食べる。これで一文を得するのですが、与太郎が、昨晩と同じように真似をして一文得しようとするが、うどんを食べる時を同じにすればいいのを、朝早くから出かけて、やっとうどん屋を探して、うどんを食べてお金を支払う時、昨晩と同じように、一文・二文・三文・・・八文と数え、「親爺、今、なん時だ」「へえー四つで」五文・六文・七文・・・これで四文を損するのです。この時間のからくりが如何にも落語的ですね。噺の中に出てくるうどんを食べる時の様子が、これまた、落語的で最高です。芸の重さを感じさせてくれる噺の一つです。是非、良い芸に出会ってください。


注1: ViVa! Edo, http://www.viva-edo.com/toki.html, 2015年12月4日アクセス


【なぞかけ コーナー】


うどん とかけて

お稲荷さんのお祭り ととく

そのこころは

どちらも  きつね の 山車(出汁)が気になります 



川柳:ふうふうと 夫婦で食べる 時うどん       

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